第5章 信仰と祭祀

※本章は信仰に関わる調査項目が列挙されているが、主に「どのような宗教者がいるか」「どのような聖地があるか」といった事項の網羅に主眼が置かれている。逆に彼ら宗教者が1年の様々な行事においてどのような儀礼を行うのか、という問題は本章ではなく、続く第6章での記述内容となってくる。

 

第1節 草分けの家

※本項の内容は第1章にも言及があり一部は重複している。あわせて参照するとともに、ここでは第2節以降で論じる宗教儀礼や神役の継承の問題につながる項目として質問が立項されている。

 

1)集落の始まり

*この集落はいつごろ出来たか、言い伝えは残っているか

*この集落を最初に開拓した(草分け)のはどのような人物であったと言われているか

 >個人か、夫婦か、複数の家族であったか

 >草分けはどのような出自の持ち主か(按司、士族、遠方からの開拓者など)

*草分けがどのようにこの村を開拓したのか、言い伝えはあるか

 >田を拓いた、水源を見つけた、など

*草分けの子孫とされているのはどの家か。また今でも継承者がいるか。

*草分けが眠っているとされる墓はどこかに残っているか

 >残っている場合は、現在は誰が祀っているか

 >集落全体で草分けの霊を祭祀するような儀礼はあるか

 

2)草分けの家の役割

*草分けの家は集落のどのような場所にあるか

 >拝所、殿地、井戸などとの位置関係はどのようなものか

 >集落が移動した伝承がある場合、移動前の所在についても聞く

*草分けの家はノロやネガミ(根神)などを輩出する家と一致するか

 >一致しない場合、その理由などが伝承されているか聞く

 >ほか男性神役の輩出についても確認する

*草分けの家には、その家の家族以外も加わって祭祀する神や祭祀物などがあるか

*草分けの家は分家を出しているかどうか

 >出している場合は、それらの分家がそれぞれどのような家であるか

 

第2節 神役

※沖縄本島の女性神役組織は衰退が進んでおり、同時代の話としては聞き取りが難しい恐れが強い。過去に祭祀が行われていた時代の人を捜し求める必要がある。

※なお仲松弥秀版『恩納村誌』にはノロについての記述が充実しているが、裏を返せば話者がそれを読み、それに基づいた知識を話してきているケースが考えられる。そういった語りも聞き取ってよいが、話者の実際の経験に基づく語りなのか、本から得た知識であるのかは注意して聞き取ること。

 

1)ノロ

1.ノロとは何か

*この地域にノロ(ヌル、ヌール)などと呼ばれている女性神役はいるか(いたか)

 >もともといなかった場合はどこから呼んでいたか

 >昔いて今はいない場合はいつごろまでいたか

*この地域のノロはどの字を担当していたか

*ノロになるのはどのような出自の女性であったか

*ノロは結婚してもよかったか(実際に結婚していたか)

*ノロになるのは何歳くらいからであったか

*ノロの役割は終身務めるものであったか、一定の任期で交代するものだったか

*ノロは村全体で何人くらいいたか

>特に字の範囲を超えてよその字から祭祀にやってくるようなノロはいたか

*ノロにはどのような資質が求められたか

 >霊的な感受性、責任感、整った顔立ちなど

*ノロの祭祀にはどのような謝礼をしたか

*ノロに与えられていたと言われる土地(ノロ地)の伝承はあるか

 

2.ノロの就任

*ある女性がノロへ就任することはいつ、誰が、どのように決めたか

*ノロに就任する資格があるのはどのような人であったか

 >特定の家筋に生まれた女性か

 >特定の家によその村から嫁いできた女性はノロになれたか

*「最近死者を出した家の者はノロになれない」などの禁忌はあったか

*ノロはどのような方法で選出し選任したか

 >祭祀集団による合議か

 >クジによる選出は行われていたか

*ノロへの就任にはどのような儀礼が行われたか

 >ウタキなどでの祈願、唱え事の訓練、など

 >※もし詳しく知っている人がいたら貴重であるので、編纂室まで連絡すること

*新ノロの教育に携わったのは誰か

 

3.ノロの衣装・祭具

*新ノロはどのような衣装・祭具を継承したか

 >白衣、勾玉、扇、羽飾りなど

 >もし既に失われているならば、いつ、どうして失われたと聞いているか

*ノロの衣装・祭具は誰からどのように継承するきまりであったか

*継承されるもの以外で、祭祀のたびに作られるような道具が何かあったか

 >あった場合、どのようなもので、誰が用意していたのかも調べる

 

2)神役組織(根神・根人・イガミ・ニブトゥイ)

1.根神・根人

*この地域に、根神(ネガミ、ニガミ)や根人(ニッチュ)などと呼ばれた神役はいたか

 >いない場合はいつごろまでいたか

*根神、根人の年齢や性別はだいたいどのようなものであったか

 >一般的に根神は女性、根人は男性であるが、そうであるか確認する

 >複数の根神・根人がいた場合は人数なども確認する

 >別の呼称である場合もある

*根神になるのはどのような出自の人物であったか

*根人になるのはどのような出自の人物であったか

*よそから移住して来たり、嫁いできた者などは根神・根人になることが出来たか

*根神・根人の任期はどのようなものであったか

*他の字の祭祀に関わるような根神・根人はいたか

*根神・根人への就任はいつ、誰が、どのように決めていたか

*根神・根人になるにはどのような資格が必要とされたか

*根神・根人の就任儀礼はどのようなことが行われたか

*根神・根人の教育は誰が行ったか

*祭祀の際、根神・根人はどのような衣装を着ていたか

 >男性、女性ともに確認する

*根神にはそれぞれ担当する御嶽や拝所が決められていたか

 

2.ニブトゥイ(ニブ取り)、クシレー、扇持ち

*ノロやネガミなどのほかに祭祀に関わる役職の人間はいたか

*いた場合、それぞれ何という名前の役職であったか

*それらの役職の人間はどのような役割を分担していたか

 >※恩納にはニブトゥイ(柄杓取)という神役がおり、神酒の柄杓を取る役を担ったという記録がある

*それらの役職は、どのような人間が就任する決まりであったか

 >年齢、性別、字の出身であるかどうか、どのような家の出自であるか、など

*それらの役職の任期はそれぞれどのように決められていたか

*それらの役職に就任儀礼は行われていたか

 >特定の年季で脱退していた場合、脱退儀礼はあったか。

 

3.祭祀組織の構成

*ノロや根神はどのような組織を構成していたか。またその組織を何と呼ぶか

*祭祀組織にはどのような序列があったか

*祭祀組織を何らかの理由で任期中に抜けることはあったか

 >身内に不幸があった場合や、妊娠した場合など

*一年の祭祀の中で、ノロよりも根神・根人の方が上位に立って執り行う儀礼はあったか

*ノロが関与せず、根神などで行う祭祀はあったか

 

第3節 村の聖地

 

1)御嶽と殿地

1.御嶽

*字のウタキはどこにあるか

*ウタキの名称はそれぞれ何というか

*ウタキの由来やどのような神が祀られているかなどを知っているか

 >知っている場合は詳しくきく

 >※ムラが移動する以前の居住地がウタキになっている場合もある

*それぞれのウタキはどの年中行事で祭祀が行われているか

*ウタキにはどのような祭祀物が祀られているか

 >石、樹木、サンゴのほか、香炉などについても聞く

*現在のウタキの状態に整備したのは何年ごろか

 >参道の整備、鳥居の整備など、現状に至るまでの変化を記録する

*遥拝所(別の聖地に対して遠方から拝むための聖地)である場合、遥拝先はどこか

 

2.殿(トゥン)

*殿(トゥン)と呼ばれる拝所があるか

 >ある場合、その所在と名称を確認する

*殿はどのような場所であると言い伝えられているか

*殿はどのような祭祀で使われているか

 >祭祀の名称、時期、など

 

3.ノロ殿地

*ノロ殿地(ノロドゥンチ)はあるか

 >ある場合、その所在と名称を確認する

*ノロ殿地は誰が管理しているのか

*ノロ殿地は祭祀のほかに利用されることがあるか

 

4.アシャギ

*アシャギ(神アシャギ)などと呼ばれる拝所があるか

 >ある場合、その所在と名称を確認する

*アシャギは誰が管理しているのか

*アシャギは祭祀など、どのようなことが行われたか

*アシャギが移動したという伝承はあるか

 

5.村の空間

*「神が通る」と言われている道はあるか

 >ある場合、地図上に記録し、道の名前についても調べる

 >「子供が神様にぶつかってマブイを落とす」道がないか、も聞く

*集落が分かれて、別々のウタキや殿地を祭祀する例はあるか

 >※「集落の北半分がAウタキを、南半分がBウタキを祀る」ような例のこと

 >事例がある場合は集落のどこが境界線になるのかを確認する

*「死んだ者はあのあたりにいる」と言われるような山や土地があるか

*「昔は墓だった」と言われている土地はあるか

 

2)拝所と神々

1.井泉

*集落の井泉(カー)で祭祀対象になっているものはどれだけあるか

 >何月の何という祭祀であるのかも確認する

 >場所なども地図に落として確認する

*それぞれのカーは何という呼称であるか

*それぞれのカーに関して由来や性質についての伝承などはあるか

*個人的な祭祀の対象となる井戸(カー)はあるか

 >ウブガー(産水を汲む井戸)、など

*水が枯れたり、使われなくなったカーはあるか(ツブレガー、など)

 >使われなくなった井戸でも祭祀は継続されているか

 

2.火ヌ神

*集落の「火の神」として祀られているヒヌカンはあるか

 >ある場合、数、所在、それぞれの名称を確認する

*それぞれのヒヌカンはどのような由来を持っているか

 >誰がいつ、なぜ祀りはじめたか

*集落のヒヌカンを管理しているのは誰か

*家のヒヌカンと同様の、1日・15日の祭祀を行っているか

*どのようなときに拝むのか

*(建屋などが設けられている場合)現在のように祀るようになったのはいつか

 

3.グスク

*字の近隣に「グスク」はあるか

*そのグスクの由来などは聞いたことがあるか

 >過去の居住地であった、など

 >過去を示す遺構などが残っているかも聞く

*グスクは御願や祭祀の対象となっているか

 >なっている場合、どのような祭祀の時に拝まれているか

 >祭祀の時は現地まで赴くか、それとも遥拝(遠くからの祭祀)のかたちをとるか

 

4.竜宮神

*竜宮神を祀っている聖地・拝所はあるか

*竜宮神の由来に関する伝承(いつ、誰が、どうして祀ったか)はあるか

*竜宮神はどのような機会に祀られているか

 >どのような利益(航海安全、豊漁祈願など)があると言われているのか

*どのような神体を祀っているか

 

5.ビジュル

*「ビジュル」と呼ばれる神様はあるか

 >ある場合、場所や呼称、形態などを聞く

*ビジュルの由来に関する伝承(いつ、誰が、どうして祀ったか)はあるか

*ビジュルではどのような神体を祀っているか

*ビジュルでは誰が、どのようなときに祭祀を行っているか

 

6.テラ

*テラ(ティラ)などと呼ばれる場所があるか

*テラでは何を祀っているか

*テラとはどのようなもので、いつから祀られていると言われているか

*テラの祭祀はどのようなときに行われるか

 >直接テラで祭祀を行うのか、遥拝で祭祀を行うのか

 

3)祭祀の変容

*過去に失われたり、合祀された聖地や拝所、神様などはあるか

 >ある場合、いつ、どのような理由で失われていったのか

 >聖地が失われると同時に祭祀もやめたのか

*戦後のアメリカの占領を理由に継続できなくなった祭祀はあるか

 >聖地・拝所が訓練所に取られた等の例

*地域の開発によって移動したり失われた聖地や拝所はあるか

 >道路の開発や観光ホテルの開発など

*祭祀組織は現在、どのようになっているか

 >神役の不在などの事例が生じているか

 >不在の神役の代役を区長などが務めるような例は起きているか

 

第5節 屋敷地の中の神々

1)屋敷神

2)位牌・香炉の継承

3)火ヌ神

4)屋敷拝み

 

第6節 俗信

第7節 民間宗教者

第8節 外来宗教

※寺院・教会関係者からの聞き取りが必要となるため、一般の民俗調査の対象からは外すこととする。

 

1)仏教

2)キリスト教

3)その他