※生業の調査では「話者が必ずしもずっと同じことで生活を立ててきたわけではない」ことを意識しておく必要がある。個々の話者の人生に即しつつ、通時的把握(時代によってどう変わったか)と、共時的把握(その生業がどのように営まれていたか)に同時に目配りすること。
※生業を把握する際には構造、あるいは複合性によく注意すること。たとえば1つの畑であっても、季節によって複数の作物を二毛作していることがある。その場合、何をどう組み合わせているのかを、その作業内容も含めて見ていく必要がある。また農繁期には畑に出て、それ以外の時期には村外に出稼ぎに出たりする例や、漁師であれば長期にわたって地元を離れて活動する例なども考えられる。1つの土地や、一年のスケジュールをどのように配分して利用することで生計を立てていたのか、その構造を調べること。
※沖縄の農家は、生産物から、①サトウキビ農家、②稲作農家、③畑作農家、④果樹農家、に分けて捉えられる。生産規模から①、民俗文化との関わりから②は重視されるため、独立して項目が立ててある。③・④は重なり合っており、①からの転作も多い。沖縄農業の近年の状況として、高級なフルーツへの移行や、島野菜への移行が見られるため、それらについても目配りすること。
※まずは「何を育てていたのか」を聞き、一通りリストアップするところから始める。リストが出来たら、話者にとって重要度が高いものから順に、どのように栽培していたのかを教えてもらう。
*以下の作物のうち、この地域で(もしくは話者が)育てたことがあるものはどれか
>また地元の言葉でそれぞれ何というか
>島の固有種であったのはどれか。また外来種と固有種をどう呼び分けているか
*ここにないもので、話者が何か育てていれば一緒に聞く
[主食になるもの]
[葉もの]
[瓜]
[根菜]
[豆]
[香辛料]
[果樹]
[換金作物]
○サトウキビ
*水田はどこにある(あった)か
*広さはどのくらいであったか
*水田に名前はあるか
*その田をどのように入手したか(親からの継承、譲ってもらった、借りている、など)
*耕地ではなかったのを水田にした場所(開拓した水田)はあるか
*水田から別の作物に切り替えた耕作地はあるか
*深田(ふかだ;そのままでは水深が深すぎる田)はどのように使ったか
*どのような土が稲作には良いと言われているか
>この地域ではどの田の土が一番良いと言われているか
*水田にいる魚や貝を食べることはあったか
>食べていた場合、何をいつごろ採っていたか
>それぞれの魚や貝を、地元の言葉で何と呼んでいたか
*田の境界を示す石などはあるか
>印部石などと呼ばれているもの。もしある場合、写真を撮って場所を記録しておく
*田への水はどこからどのようにひいてきているか
>川や泉からか、天水田か
>耕地整理や改良事業で水を引いた例はあるか。ある場合それはいつの事業か
*コメの銘柄では何を育てているか。また時代によってどのように切り替えてきたか
*防虫のためにどのような対策を行っているか
>農薬の使用のほか、伝統的な害虫除けの方法として教わったことがあるものはないか
*肥料はどのようなものを使っているか
>特に購入ではなく、自家製肥料の場合、何をいつ、どのくらい田んぼに入れていたか
*機械化が進んだのはいつか。またどのような機械をいつごろに入れたか
>トラクター、コンバイン、など
*機械を導入する前は、労力をいかに確保していたか
>ユイマールによる協業、牛や馬を使う、アルバイトを雇う、など
>時代による変化を聞いていく
*稲作終了後、稲わらはどうしていたか
>綱引きの綱などの需要がある。誰に引き渡していたのかを調べること
※以下の作業をいつごろ、どのように行っていたのかを順番に聞いていく。なおこの順番に行っているとは限らないので注意する
*この間、豊作を祈願する儀礼などがある(あった)場合、いつ、どのようなことが行われていたのかを聞く
>ウマチー、三穂田の儀礼など
*収穫のまだまだ前に、「すでに豊作であったかのように」行う儀礼はあったか
>※予祝(よしゅく)儀礼と呼ばれるもの
*収穫後、最初に獲れた稲を神や先祖に奉納する儀礼はあったか
*収穫したコメはどのような販路で流通させていたか
>特に復帰以前にはどうであったか調べる
*稲の品種改良はどのように進んだか
>食味の向上、収穫量の向上、台風に強い、暑さや水不足に強い、など
*サトウキビ畑はどこにある(あった)か
*広さはどのくらいであったか
*サトウキビ畑に名前はあるか
*その畑をどのように入手したか(親からの継承、譲ってもらった、借りている、など)
*耕地ではなかったのをサトウキビ畑にした場所(開拓した畑)はあるか
*サトウキビ畑から別の作物に切り替えた耕作地はあるか
*サトウキビ畑への用水はどのように行っているか
>天水の使用、スプリンクラー設備、軽トラにタンクを積んでまきにいくなど
*サトウキビの品種を変えたことはあるか
*肥料にはどのようなものを使っているか
*機械化(ハーベスターなど)は進められているか
>進んでいる場合、いつ、どのような機械が導入されたか
*サトウキビ収穫の労力はどのように確保してきたか
>ユイマール、アルバイトなど
>馬車や荷車の利用など
*砂糖小屋(サーターヤー)での製糖はいつごろまで行われていたか
>行われていた頃は、誰がどのように協力して製糖していたか
>砂糖組はあったか。あった場合、集落に幾つあり、それぞれの組にはどの家が所属していたか
*製糖工場はあったか
>あった場合、できたのはいつで、いつまで稼働していたか
>製糖工場はどこにあり、誰が経営していたか
③サトウキビの生産歴
※以下の作業を、いつごろ、どのように行っていたのかを聞く
①給水;サトウキビの茎を水につけて水を吸わせる
②植えつけ
>「畝立て植え」か「穴植え」か
>どのくらいの深さで土をかけ、どのくらいの間隔で植えたか
③施肥;いつ、どんな肥料を与えたか
④収穫
>どんな道具で切り倒し、葉を落としたか
>収穫したサトウキビは砂糖小屋や製糖工場にどのように運んだか
※前掲「1)農業生産物の種類」で、「作っている」「作ったことがある」といわれた作物に対して、以下を順次確認していく
※慣れないうちは毎年一定のサイクルで、生産暦が変化がしにくい果樹から聞いていっても良い
>質問内容は上記を最低限とし、疑問に思ったことは適宜聞いていくこと
※前項と関わるが、連作が可能な稲作および果樹類を除き、畑作では連作障害を避けるために、植えつける作物を毎回変えたり、複数の畑を使い分け、畑を休ませながら農業経営を行っている。特に「ある作物を一度挟むと地力が戻る」という組み合わせがあり、農家はそれらを利用して畑作を行っている。このことを踏まえ、「何をどう組み合わせているのか」「ある作物を作ったら、その畑では次にこの作物を作る、といったルールがあるか」などのことを聞く。
※前項の調査を踏まえ、複数の作物をいかに組み合わせて農業経営を行っているのかを調べること。農家の調査としてはさしあたり、ここまで一通り調べられたらクリアーと考えて良い。
*この集落で「作ってはいけない」と言われている作物はあるか
>ある場合、なぜ作ってはいけないと言われているのか
*豊作の祈願として行われる行事はあるか
*虫よけや風よけの祈願として行われる行事はあるか
*雨乞いのために行われる行事はあるか
*「農業をやってはいけない」と言われている日はあるか
*農業に関わる気象現象を聞いたことがあるか
>「このような雨が降ったら田植えを始める」など
※農業に使った道具を調査する。ただし民具の調査は、聞き取りとはまた別の調査手法を要するため、ここでは「どんなものを使っていたか」の調査にとどめ、もし話者が倉庫などに保管しているということであれば、その旨を報告すること。
*どんな道具を使っていたか
*農業機械の導入
*起床時間、作業時間、休憩時間はどのようなものであったか
>農家の一日の作業の組み立てを把握する
*農繁期・農閑期はそれぞれいつごろであったか
>農閑期にはどのようなことをしていたか
*名前はつけていたか。つけた場合はどのような名前をつけたか
6)ニワトリ
7)養蚕
8)犬・猫