前へ

Fieldnote 01. 徳之島の石敢當

2017年3月下旬に徳之島の巡見を行いました。徳之島は奄美群島の島の一つで、闘牛で知られています。

石敢當(「いしがんとう」「せっかんとう」などの読み方があります)は、魔除けのために路上に設置され、石板や自然石などの表面に「石敢當」「石敢当」などの字が刻まれているものを指します。沖縄では本島を中心に広く分布が見られ、最近ではミニチュアが土産物として売られている例も見られます。丁字路の突き当りの壁面に据えるのが正しい形らしく、沖縄の魔物(「ケンムン」や「マジムン」などの言葉で呼ばれることもあります)が直進しかできないため、丁字路で石敢當にぶつかって倒すことができる、という伝承があります。もっとも現代の沖縄では置かれる場所は丁字路には限られず、色々なところで見かけることになります。

ところでここに載せた石敢當は、徳之島の亀徳を歩いていて見かけたものです。見ればわかるように「石敢當」の「敢」の字が「散」になっています。また2枚目の「石散當」には下に、修験道などが用いるシンボルである九字が刻まれているのも目を引きます。

石敢當
[写真1]亀徳の石敢當(1)

石敢當
[写真2]亀徳の石敢當(2)

単純な誤字といえばそれまでですが、どうも徳之島では「石敢當」と「散」の字の間に観念上の結びつきがあるようで、徳和瀬では次の写真のようなものも見かけました。「石岩當散」と書かれており、「石敢當」の「敢」を「岩」と取り違えたうえで末尾に「散」の字を加えています。立ち聞きくらいの聞き取りしかできなかったため、あまり踏み込んだことは言えないにせよ、「石敢當」が魔を「散らす」という連想からきているのかもしれません。

石敢當
[写真3]徳和瀬の石敢當

奄美の場合、石敢當の分布は沖縄県に比べるとずっと少なく、恐らくは近代以降、沖縄系の人間が移住していく中で奄美に持ち込んだものが大多数であると考えられます。しかしながらここに見る徳之島の場合は、石敢當の民俗文化を単にコピーするだけではなく、「敢」を「散」に書き換えることでいわば石敢當の魔除けの機能に解釈を加え、改変した痕跡が認められます。そしてこうした解釈行為の背景には、何らかの体系的な宗教的観念を具え、文字を駆使した宗教者が活動していたことが想定されるでしょう。