第4章 交通・通信

※歴史的変化は行政文書や航空写真で確認できることも多いので、話者が分かる範囲で教えてもらえればよい。

※「どのような人が通っていたか」「どのように使っていたか」といった道の利用実態、および、道路による村の区切り方などは聞き取りでしか分からないので尽力する。話者の実体験に即して、「いつ、どこに、何があったか」を具体的に聞いていくとよい

※話者の背景に注意すること。「当たり前のこと」であるので、自分自身が関わらないところでは記憶されにくいことが多い。また幼少期からずっと地元で暮らしてきた人と、一時出稼ぎなどで離れていた人では気づくものが違う(たとえば10年間地元を離れていた人間が帰ってくると「ここが変わった」「あれがなくなった」という強い印象を受けるため、記憶に残ることになる)ので、そういう生活経験の持ち主がいたら積極的に聞いてみるとよい。

 

第1節 道

 

1)主要道

*集落にとって主要な道はどれか

※基本的には、①他集落とつながる道、②集落をつらぬく中央道、③道ジュネーや綱引きなどを行う道、に分けられる。しばしば1つの道がこの3つの機能を兼ね備えているが、異なっている場合に注意すること。

*その道には地元の呼称があるか

*その道が幅や道筋を変えられたり、新たな大通りが別に通されたことはあるか

 >ある場合、時期やどのような変化であったのかも聞く

*道ジュネーや綱引きをする道はどこか。またその道の名前を何と言うか

 >それらが行われる道が変更されたことはあるか。変更された場合はその理由も

*橋を架けられたことで交通が変わった道はあるか

 ※特に海浜集落の場合、橋によって交通環境が変わることが多いので注意

 >橋がかかったのはいつか。また橋が整備されなおしたことはあるか

 

2)主要施設

※ここでは主要道によく付帯する施設を挙げた。他にも話者が記憶している者があれば、設置された場所、設置・撤去された年、どのような施設・設備であったかを聞き取る。また移動していないかどうかも確認する。

*学校はどこにあったか(設置個所、設置年・撤去年、どのような設備であったか)

*郵便局はどこにあったか

>ポストはどこにあったかもあわせて聞く

*交番はどこにあったか

*バス停はどこにあったか。またバス停の名前は何だったか

*給油所はどこにあったか

>ガソリンスタンドに限らず、燃料油を買えるところはどこであったか聞く

*車の整備をやっている業者はどこにあるか(あったか)

*発電・変電の施設がどこかにあったか

 

3)道の整備

*昔あったが今はなくなったような道はあるか

*道路の整備はいつ、どのように進んだか

 >土の道、砂利道、アスファルトへの変化がそれぞれいつであったかを聞く

*川や溝が暗渠(あんきょ:地下水路)に変えられた例はあるか

 >ある場合、川だった頃はどこを流れていたかを聞く

 >暗渠にされたのはいつであったのかも確認する

*集落の責任で整備することになっていたのはどこまでだったか

 

4)村の道

*集落の中に名前のある道はあるか

 >あわせて言い伝え(役人が使った、蚊が出た、など)がないか聞く

*儀礼や信仰に関わる道はあるか

 >「神が通る」などと伝えられている道はあるか

 >「葬儀の野辺送りの際に必ず通る」ような道はあるか

*集落を「上・下」「東・西」などに分けるような道はあるか

 >ある場合、変化があったかどうかも確認する

*ウタキや拝所に繋がる道はどれか。またそれらに変化はあったか

 

5)農道

※主に圃場整備による変化と、耕地開拓のための新しい道の整備が調査対象となる

*田畑の間を通る農道は昔と今とで変わらないか

 >変わっている場合はいつ、どのように変えられたか

 >水路や畦などに変化がなかったかも確認する

*新しい耕地を開拓するためにひかれた道はあるか

 >ある場合、どの道が何年ごろにひかれたのかを確認する

*農業用水の給水施設などはどこにあるか

 ※サトウキビ栽培では水タンクへの給水設備などが集落近辺に設けられることがある。農業経営の便宜と水源地とを勘案し、しばしば複数の集落の共用で設けられる

 

6)道の管理

*道の管理は誰により行われていたか

 >「国や県が管理した道」と「集落で管理した道」を分かる範囲で聞き取る

 >集落で管理した組織はなんだったか

*道の管理方法はどのようなものだったか

 >年に何度か、道の修理や清掃をするような日があったか

 >誰がリーダーになって仕切ったか

 >誰が労働力を提供したか

 >手伝った人には日当などが渡されたか

*集落による管理としてはどのようなことが行われていたか

 >でこぼこ道の修理、道の崩落や冠水への対応、雑草取り、牛馬の糞の処理、など

*道に水が溜まらないようにどのような対策がされていたか

 >近代的な排水溝の整備時期と、それ以前の対応の仕方を聞く

 

7)本土復帰

※1972年に沖縄が本土に復帰した際、大きな変更として米式の「道路の右側通行」を廃止し、日本の「左側通行」への切り替えを行っている。この時にどのようなことが起きたか、記憶を語ってもらう

*復帰で通行車線の切り替えが起きたときのことを覚えているか

 >どのようなことがあったか話してもらう

 >トラブルなどがなかったかも聞く

*標識や道路標示などの切り替えはどのように進められたか

 

第2節 人の移動と交通手段

 

1)日常的な交通手段

*徒歩以外の交通手段としてはどのようなものがあったか

 >時代別に聞く。バス、自転車、牛馬・馬車

*重いもの(農作物・家具など)を運搬する際にはどのように運んだか

 >荷車、大八車、リヤカーなどを使っていたか

 >荷車などは牛や馬などに牽かせていたか

*自転車はいつごろ普及したか

 >どのような自転車が使われたか(大きさ、機能など。カゴはついていたか)

 >一世帯に一台ずつあったか

 >故障やパンクはどのように修理していたか

*バイクはいつごろ普及したか

 ※沖縄の場合、「戦後に米兵が乗り回していた」ことが記憶されていることが多い。初めてバイクを見たのがいつであったかと、沖縄の庶民がバイクに乗るようになったのがいつであったのかをあわせて聞くこと

 >どのようなバイクに、どのような人が乗っていたか

 >バイクに荷車をつけて牽かせるようなことは行われていたか

*自動車はいつごろ普及したか

 >どのような車種(日本産、米国車、欧州車)が、いつごろ乗られていたか

  >ハンドルが右であったか左であったかも聞く

  >いわゆる自家用車ではなく、商用のトラック類である場合もあることに注意

 >集落で最初に車に乗るようになったのはどのような人物だったか

 >初めて車を持った際、駐車場はどのように準備したか

*自動車免許証はどこで、どのようにしてとったか

 >幾らくらいかかったか、何のために免許を取ったのかも聞く

*女性が車を運転するようになったのはいつごろからか

 >親族で最初に免許を取った女性は誰で、何歳頃、何のために免許を取ったのかを聞く

*この地域に自動車を使って商売(行商、運搬、タクシーなど)をする者はあったか

 >あった場合、いつごろ、どのような商売を行っていたのかも聞く

*自動車が故障した場合、どのように対応していたか

 

2)公共交通機関

*バスは「どこ発・どこ行き」のバスが一日何本くらいずつ走っていたか

 >時代別に聞く。話者の記憶にある範囲でよい

*どのような人がバスを使っていたか

 >通学、通勤、通院など

*バスの大きさはどのくらいで、何人くらいが乗れたか

*台風などによる欠便はどのように知ったか

*バスの停留所はどこにあったか。また停留所名は何と言ったか

*バスの停留所のそばに、公共の時計などはあったか

*タクシーはいつごろから走るようになったか

*地元からタクシードライバーになった者はいたか

 >いつごろ、どのような人がタクシードライバーになっていたか

*地元の人間がタクシーを使うことはあったか

 >あった場合、どのようなときに使ったか。また運賃などは幾らくらいだったか

 

3)牛馬

*牛馬を乗り物や運搬の手段として使っていたのはいつ頃までか

 >用途と時期について確認すること

*牛馬は家一軒あたり何頭くらいいたか。また数軒の家の間で牛馬を貸し借りすることはあったか

 >牛何頭、馬何頭とそれぞれ数を確認する

*飼養していた馬にはどのような特徴があったか

 >大きさ、性格、模様、毛並など

*牛馬には荷車などをどのように牽かせていたか

 >固定するための道具はどんなものを使ったか、またその地元での呼称はなにか

 >牛馬を歩かせたり、止まらせたりする指示はどのように出したか

*牛馬はどのように入手していたか

 >業者から買ってくる、知り合いに分けてもらう、など

*年をとった牛馬はどうしていたか

 

4)人の移動

*日常的な徒歩での活動範囲はどのくらいまでだったか

 >自宅を中心に、地図上で「だいたいこのあたりまで」というのを示してもらう

*用事があって出かける場合、どのくらいの遠さまでなら徒歩だったか

 >時代による違いを押さえる

 >交通機関が未発達だった時代には、20~30キロ程度の距離を徒歩で移動していることが多い。どのくらいの距離を、どのくらいの時間をかけて移動していたのか確認する

*学校はどこにあり、どんな方法で、どのくらいの時間をかけて通っていたか

 >小・中・高それぞれについて確認する。なお登下校時の手荷物がどのくらいの分量であったのかもあわせて聞くこと

 >話者の年齢から逆算することで、時代が特定できる。話者の生年を聞き漏らさないこと

*会社などに勤めていた場合、勤務先はどこにあり、どんな方法で、どのくらいの時間をかけて通っていたか

 >仕事先は、どのくらい遠方までなら通えたか

 

5)物流

*地元から他集落や市場まで物を売りに行っていた者はいたか

 >いた場合、どのようなものをどこまで売りに行っていたか

 >その際に、どのような交通手段を用いていたか

 >季節や時期などによって違いはあったか

*他集落などから地元まで行商にきていた者はいたか

 >いた場合、どこの人間が何を売りに来ていたか

 >その際に、どのような交通手段を用いていたか

 >季節や時期などによって違いはあったか

*いくつかの集落を巡回して何かを販売するような業者はいたか

 >いた場合、どの集落をまわり、何時ごろ、どんなものを売りに来ていたか

 >その際の交通手段は何だったか

*地元で手に入らないものを買いだす場合には、どこに行ったか

 >行き先と交通手段、何人くらいで行ったかも聞く

 >特にどのようなものの買い出しが多かったのかも確認する

*冷蔵機能のついた車両が、移動販売をするようになったのはいつごろか

 ※ない場合も多い。魚や精肉の移動販売は、冷蔵車両がないと効率が悪い

 

第3節 海上交通

※海浜の集落の場合、荷物の運搬や長距離の移動の場合には、会場を移動するほうが効率が良い。どのような場合に海上交通が用いられ、どのような船で何をどこまで運んでいたのかを聞いていく。またそれが陸上交通に代わられていった時代も見ていく。

 

1)乗船港

*人間が船で移動する場合、主にどのあたりが目的地だったか

*どのような船で、どのくらいの時間をかけて移動したか

 >船の大きさ、どんな客室だったか、乗船中にしていたこと、船内販売はあったか、など

 >船賃は幾らくらいで、いつ、どのようにして支払ったか

 >手荷物代は船賃とは別に取られたか。取られた場合いくらくらいだったか

*どこの港から乗り込んだか

 >乗り込む際は港に船をつけたか、それとも「はしけ(浅瀬用のボート)」で港から船まで運んだか

*荷物(農作物など)を積み込んで運ぶ場合、どこの港から船に載せたか

 >人が乗る場合と同じか、異なっていたか

*荷物(農作物など)は主に、船でどこに運んでいたか

 >何をどこに運んでいたか。またその際にどのような梱包で送っていたかも聞く

*荷物が港に届き、連絡を受けてその荷物を家から取りに行くような物流の仕組みはあったか

 >あった場合、荷物の到着はどのように連絡され、どこで保管されていたか

 >札や荷物の受け取り手続きなども分かれば聞くこと

 

2)船

*この地域ではどのような船が交通手段として使われていたか

 >船の名前、船舶会社名などが分かれば聞く

 >どのようなサイクルで、週に何便程度寄港していたか

 >船のサイズや設備などはどのようなものだったか

*漁船で集落間や、都市部まで移動することはあったか

 >あった場合、どのようなときに漁船を使ったか

 

3)長距離移動

*日本本土(大阪、名古屋、東京など)や海外に移住した場合、どのようなルートで渡航先まで渡ったか

 >移住経験がある人に聞く

>地元から那覇港などを経て、どのように移動していったのかを聞く

>分かれば運賃、時間、荷物をどのように運んだか、中継港でやったことなどを聞く

*旅客飛行機に初めて乗ったのはいつか

 >行き先はどこだったか

 >空港まではどのようにして行ったか

 

第3節 通信

 

手紙

電報

電話